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2021.09.30心理学用語集
心的外傷後ストレス障害ーPost Traumatic Stress Disorder (PTSD)ー
心的外傷後ストレス障害―Post Traumatic Stress Disorder(PTSD)―
心的外傷後ストレス障害(以下,PTSD)は死の危険や生死に関わるような体験(以下,心的外傷体験)をし、強い衝撃を受けた後で生じる精神障害です。
PTSDは恐怖、戦慄、無力感を引き起こす出来事が原因となる可能性が高いです。そのような出来事は、戦争や犯罪、災害、事故、虐待、DVなどで重症を負ったりなど直接死の脅威に晒されたりすることで体験する場合もあれば、事故や自殺の現場を目撃した、目の前で繰り返し暴力が行われていた、親しい人に心的外傷体験が生じたことを知ったなど間接的に外傷的出来事を体験する場合もあります。いずれも圧倒的で生命が脅かされ「このままでは死んでしまう」「自分にはどうすることもできない」と感じるあらゆる体験が原因になる可能性があります。
通常そのような生命に関わる衝撃的な体験をした後、精神の不安定さを経験し、様々な症状が起こることは決して珍しくないことです。そのような精神の症状は異常な事態を乗り越えるための通常の反応といえ、そのような状態を急性ストレス障害(ASD)と言います。しかし、その状態が1ヶ月以上持続し、生活に支障きたすことでPTSDと診断されます。
PTSDの症状
- フラッシュバック ー 心的外傷体験を象徴する出来事やそれに類似する引き金となる出来事に暴露された時に、記憶が突然鮮明に蘇り、強烈な心理的苦痛や生理的反応を引き起こします。また、記憶が蘇るだけでなく、実際にその出来事を再び体験しているかのような感覚に陥り、現実に対する認識を失うことがあります。
- 過覚醒 ー 辛い記憶が蘇っていない時でも緊張が続き、常にイライラしている、些細なことで驚きやすい、警戒心が常に強くなる、ぐっすり眠れないなど、常に神経が張り詰めているようになります。
- 回避 ー 心的外傷体験に関連する刺激を持続的に回避します。心的外傷体験に関する記憶を思い出す人や場所、機会を避けたり考えないようにしたりする意図的な努力をします。例えば、暴力をふるわれた建物に入ることや近くにいくこと、または似たような場所を避けたり、加害者と同じような人種の人と接することを避けたりすることがあります。また、外傷体験について考えたり、話したりするのを避けようとすることがあります。
- 認知と気分の陰性変化 ー 自分自身や他人、世界に対して過剰に否定する信念や罪悪感、怒り、恥じなどの考え、感情の否定的認知を経験することがあります。また、それまで楽しんでいた活動に対して興味や関心が喪失し、周囲との疎遠感、孤立感を感じ、幸福や愛情などの陽性の感情が持てなくなることがあります。
PTSDと記憶の整理
通常、私たちが生活の中で体験している出来事は、いつ、どこで何をしたか、その時何を考え、何を思ったのかなどが時間的な順序を持ってある程度の整理がされています。そして、そのような整理がされていくのは、その出来事の原因と結果という枠組みの中で落ち着いて記憶を振り返ることができるからです。そうすることで自分にとってネガティブな経験でも「脅威」となることはなく自分自身の経験の一部として捉えることが可能となります。
一方、PTSDを引き起こすような圧倒的で生命の危機となるような出来事に晒されると、あまりにも強い恐怖やショックを感じるため、その体験を落ち着いて整理することができません。どのような時間順序で起こったのか、その時何を体験し、どう感じたのかなどが入り混じり混乱します。また、なぜそのことが起こり、どういう結果になったのかなどの繋がりもよく分からずにその出来事が枠組みを持って捉えることができません。そのために、自分の体験の一部であるにもかかわらずとても不安定で異質なもののように感じられ、自分にとってとても「脅威」なものとなります。
そのため、PTSDは昔に起こった怖かった出来事が今でも継続して恐怖を生み出し続ける特殊な記憶になっているのです。
PTSDの治療
PTSDの治療は今でも恐怖を生み出し続ける特殊な記憶を「普通の記憶」に戻すことが目標になります。つまり、過去に経験したことは過去のことであり、今自分が被害や脅威に晒されることはないと実感してもらうことが必要となります。また、トラウマの記憶からの影響で、自分や周囲に対してネガティブな考えが癖になっていることがあるので、そうした考え方を修正していくことも治療目標になります。
こうした治療のためには「認知行動療法」が有効であるとされています。具体的にはトラウマについて話をしながら記憶を整理していき、回避していた記憶に段階的に触れて恐怖や不安を消去していく「持続エクスポージャー療法」、自然な回復を妨げている信念・考え方に注目し、トラウマ体験を捉え直していく「認知処理療法」などが挙げられます。
PTSDかもしれないと思ったら
犯罪被害など特に性犯罪や家庭内での暴力、虐待などは人に相談しづらかったり、辛い思いを誰にも打ち明けられずに我慢して抱え込んでしまうことが少なくありません。
犯罪被害の場合は警察に犯罪被害者相談窓口がありますし、行政の窓口に相談することも良いと思います。また、精神科を受診したり、信頼できるカウンセラーに相談したりなどもご検討されると良いと思います。一人で悩まずに、相談をしてください。
引用・参考文献
DSM-Ⅴ 精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイトHP
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd.html
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